
そうだ、寝台列車に乗ろう(と思っても気軽に乗れない)
最近の上京手段は基本的に飛行機一択である。大分空港なりからブーンと飛べばそこはもう羽田なり成田なりなのだ。若いころならいろいろ寄り道のできるほかの手段も積極的に選んでいたが、最近は無駄に体力を使わないような手段をメインに選ぶようになってきた。何よりも、最近はセールを使えばANAもJALも1万円で飛べてしまう状況で、なおさらほかの手段を使いづらい状況である。
コミケも以前は18きっぷを愛用していたが、連続三日なり五日なりの連続使用が必要となり、便利だった夜行快速ムーンライトも復活の兆しはない状況で、もはやほとんど使用することはなくなってしまった。そんなわけで今回も飛行機でブーンが一番良かったのだが…取れなかったのだ。セールの予約が。
2025年の夏コミであるコミックマーケット106は、例年と比べ珍しく一週間後ろにズレた開催となったため、お盆と完全に重なってしまったのだ。都会の人にはそれがどうしたといわれるだろうが、地方の者にとってはなかなか致命的である。お盆の帰りの移動のピークが重なってしまい、飛行機のセールは取れずクソ高いし、フェリーは特別料金でクソ高いしと、なかなか最悪な日程になってしまったのだ。
とはいえコミケに申し込んでスペースをもらった以上、移動費が高いからと上京しないわけにもいかない。いろいろと勘案した結果、こういう時期は普通にJRで行くのが結果的に一番安上がりとなるので、令和元年のGWにやった平成→昭和の旅以来6年ぶりに普通乗車券での上京を決めたのだった。
しかし、単純に新幹線で行くのはなんかもったいない。せっかくの機会なので日本に残る最後の寝台特急であるサンライズ瀬戸・出雲号を利用することにした。岡山まで何とかして向かえばあとは寝てれば東京という算段である。
とはいえサンライズ号は今や予約が大変な列車の代表格となってしまっている。ネット予約に対応しているだけマシではあるが、特にこの時期ではまともに予約が取れるもんではない。一応事前予約を利用したもののとれるはずもなく、この一か月時間があればひたすらe5489にアタックお祈りし、乗車二日前にようやく予約をもぎ取れたというありさまであった。まぁ取れなければ18きっぷで行くという最終手段はあったが、あまりやりたくはなかった。


一路岡山へ
当日(8/15)は朝一から出発して、広島で高架になった路面電車を見て、尾道でラーメン食って、ゆっくり岡山に行こう…と思っていた時期もありましたが、実際に出発した時間はもはや15時です、本当にありがとうございました。
一応節約のために普通列車で小倉へ、小倉から岡山へは新幹線だが、せっかくなので引退の近い500系に乗ろうと広島でこだまに乗り換えた。



岡山のいつものうどん屋で晩飯。1時間待ちなので飯食ってちょうどいいと思ってたら22時半発なので2時間待ちだった。とりあえずサンライズに乗る前にシャワーを浴びておくかと駅前の快活へ。シャワーは列車内にもあるのだが利用するにはシャワーカード争奪戦に勝たねばならず、今日のように満員の状態では勝てる気がしないのであっさりと引き下がっておく。前に乗ったときは車掌からの購入で、検札に来た時点でも大丈夫だったのになぁ。



22時20分過ぎ。一足先にサンライズ瀬戸号が入線。一応説明しておくとサンライズ瀬戸・出雲号は高松~東京間を運行する「サンライズ瀬戸号」と出雲市~東京間を運行する「サンライズ出雲号」の二つの列車からなり、岡山から東京間は二つの列車を連結して走行する。岡山駅にはまず高松駅から瀬戸大橋を超えてやってきたサンライズ瀬戸号が入線し、続けて同じホームに山陰から中国山地を超えてやってきたサンライズ出雲号が到着、両列車の連結作業を行うのだ。



連結作業の様子。大人気だわね。ふと16年前の門司駅を思い出して懐かしくなった。

なお出雲に乗っているとこの併結作業は見れない。扉が開くのは連結後のためである。そして出雲はの停車時間は2分しかないので、ゆっくり撮影していると置いていかれる。まぁこの後の新幹線で追いつけるけども。
そんなわけで自分が取れたのは出雲のほうなので、ようやくの乗車である。
サンライズの夜


サンライズ号に使用される車輛は285系電車という国内唯一の寝台電車である。一編成は7両編成で158人が乗車できる。寝台列車という事でシングル・ソロといった個室が主であるが、一両だけノビノビ座席という特殊な車両がある。今回はこの車両に乗車する。

ノビノビ座席の様子(写真:W0746203-1 • CC BY-SA 3.0)

ノビノビ座席は個室ではなく、フェリーの雑魚寝席のようなものである。一定間隔でスペースが区切られており、これが一人分の座席となる。毛布などの簡易な寝具はついているが、個室ではないので追加の寝台料金は必要なく、指定席特急券のみで乗ることができる。この日は満席だったのでこの区画は人で埋まっている状況であった。さすがにこの状況だとちょっと落ち着かない感じもあるが、窓のほう向いていれば実質個室のようなもので、ゆっくりと景色を楽しむことができる。
なおノビノビ座席の最大の問題としてはコンセントがないことがあげられる。そもそもこの車両が登場したのが携帯電話の普及が始まったころなので仕方ないところはあるが、いまやコンセントは全座席に搭載されつつあるという状況下ではいささか心もとないところはある。まぁないものはないのでご注意したい。あと使い捨てのコップはあるのだが歯ブラシがあるわけではない。洗面台はあるので歯ブラシは自分で持参しよう。ちなみに個室に乗ってもA寝台のシングルデラックス以外歯ブラシはついていないのでこれまた注意である。フェリーだと割と下等でも付いてくるのだが。
荷物を置いたらほどなく発車。夜行列車特有のアナウンスが懐かしい。
夜行列車自体は2019年夏のムーンライトながら以来の乗車、寝台列車は2014年秋の急行はまなす以来。そして山陽路の夜行列車となると2009年の特急富士廃止時までさかのぼることになる。
そして肝心のサンライズであるが、実はこの乗車が二回目なのか三回目なのか、いまいちはっきりとしない。初回は2000年秋にノビノビ座席に乗車で間違いないのだが、そのあと2000年代に個室に乗ったことがあったようななかったような…どちらかというとあったような気はするのだが、写真も記録も見当たらずで確証を得ない。
さて、このサンライズ号。個室ならその中で好きに過ごせばいいのだが、ノビノビ座席の場合共用スペースのようなものなのでちょっとここでは過ごしずらい。特に遅くに乗ってご飯を食べたいときとか横の人が寝てたらどうするんじゃい、と思ったりもするだろうが、一応そういうときのための共用のラウンジが存在する。



通路を挟んでカウンターに8席が設置された、小さいながらもラウンジである。奥には自販機も設置されている。すぐ隣にシャワー室があるためシャワー待ちの際の待機所となっていると聞いていたが、23時近くではシャワーを待っている人も使っている人もいない様であった。謎のスペースに設置されたシャワーカード販売機は売切れの文字が浮かんでいるので20枚は売り切ったようだが、利用は山越えしている間にあらかた終わったのだろうか。
せっかくなので岡山を発車して姫路を発車するまでの1時間程度をラウンジで過ごしていた。しかし誰も来ないどころか誰も通路を通らないな。フェリーだとちょいちょいうろついてる人を見かけたものであるが、まぁ列車だとラウンジか自分の部屋か、あとはトイレ洗面所くらいしか行くところはないもんな…
サンライズの朝
加古川通過あたりでやることもなくなったので席に戻って就寝。船に比べれば揺れるしうるさいしと環境は良くないが、案外ぐっすりと寝られたようで、夜中に起きることもなく次に起床したのは静岡県も2/3を超えた富士駅であった。
時間は5時…の割には明るいな? と思ったら、どこかで長時間停車していたようですでに6時であった。遅れてるーッ!



アナウンスによると、静岡のどこかで豪雨規制があったらしくしばらく止まっていたらしい。幸いにもこれ以上は大きな遅れにはならない様であるが、これから本数の多い首都圏に入ることもありどこかの定期列車の隙間に入るまでは安心できないところはある。ちなみに今日はコミケ1日目ではあるが、サークル参加ではないので遅れても大きな問題はない。そもそも最近は開場時間が遅くなったので東京駅に9時までに到着すればサークルでもなんとか入場できるだろう。もう瀬戸際とは言わせない。



熱海を過ぎると太平洋に浮かぶ太陽が見えた。定刻だともうちょっと明けた感があったのだろうが、それでも十分に乗っていたら朝が来たという夜行列車の醍醐味を感じられる。
やがて海も見えなくなり小田原を通過して朝の列車の密集地帯へ。このあたりで先行の定期列車が決まるので、東京到着の時間予測が立てやすくなる。この分だと8時20分には到着しそうだ。
旅の終わり


列車はおおむね60分遅れで首都圏を進んでいく。ノビノビ座席は意外と多くの人が横浜駅で降りて、終点の東京駅まで向かう乗客はまばらであった。

最後は余韻を楽しむ間もなく東京駅のホームに滑り込み、別れを惜しむ時間も取れないままとっとと荷物をまとめて降りる必要がある。フェリーであれば次の便までそこから動かないので少しはおわかれの猶予はあるのだが、列車は次の列車のためにとっととホームを開けねばならぬのだ。

夜行列車というものもすっかり珍しくなってしまったが、特に毎日運転され気軽に乗れる夜行列車はもはやサンライズ出雲・瀬戸号が唯一の存在である。とはいえ最近は予約は取りづらく、今回みたいな最繁忙期はもとより、ただの週末であっても1か月前に予約に動かないと厳しいようである。そういう意味ではすでに気軽に乗れる夜行列車は日本からなくなってしまったのかもしれない。
フェリーの本を出すためにあれこれ乗っていることもありフェリーとの比較になってしまうが、夜行のなんらかに乗りたいだけであればまぁ正直フェリーのほうが数段快適である。揺れないし広いし。
ただ、フェリーからは得られず、夜行列車からしか得られない栄養は確実に存在している。もし、ほんの少しの興味と用事と、結構な運とあとお金があるようであれば、サンライズが消えてしまう前にぜひ乗ってみてほしいと思う。
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